2012年12月5日水曜日

レコーディング夢日記 第一話

やっと辿り着いた。ついてみると案外のっぺりした島である。 

お台場近くの埠頭でフェリーをジャックしてからもう3ヶ月と4日経った。藤村操縦士はだいぶやせ細った。操縦とドラムと、二役だから他の船員よりも体力も神経もすり減らしたんだろう。今となってはスティックで船を操れる程までにどちらの技術もあがった。馬鹿力だけが取り柄で僕がこの船を乗っ取るまでは肩身の狭い思いをしたらしい。僕に最初に協力的な態度を取ってくれたのが、この藤村操縦士だった。

「なにかひどいことが起こらないかなあって、だれでもそういう不謹慎な想像ってするもんだろ?」

藤村は言った事が有る。船の突端で二人でタバコをすっていたときだったな。煙はなぜか、風に流される事無く彼の顔を覆って、なんだか魔法のランプの魔人のように見えた。そのときはまさか、そのあともう一度彼に魔人の姿を重ねる瞬間が来るとは思っても見なかった。

ある日、船長室の本棚に妙な本が有るのを見つけた。地図や伝記、技術書、あとは元船長の趣味と思われる司馬遼太郎の作品が並ぶ中で「アノニマスポップ」という、小田島等とやらの作品集がキラキラと輝いていたのだ。その画集を手に取りパラパラとめくる。CDのジャケットデザインをよく手がけるようで、サニーデイサービス、くるり、音楽にさほど興味のない俺でも知っているバンドのジャケットも中にはあった。

「おもしろいじゃん

独り言を言って本を戻そうとした、その時だ。「アノニマスポップ」の抜け殻の奥に『ジャンピングジャックフラッシュ!』と書かれたエレキギター型のボタンがあるのに気がついた。

「ジャンピングジャックフラッシュ・・・? なんだか子供の必殺技みたいな言葉だな…。」

俺はじーっとそのボタンを見つめた。やるか、やらないか、どちらかしかない時は、「やる」しか選ばない。それが俺のたった一つのポリシーだ。フェリーのハイジャックにしたって、大した理由なんてない。自分の住んでいる町から、できるだけ遠くまで行きたくなっただけだ。それでハイジャックを思いついたので、やったんだ。本当に、それだけさ。何一つ、何一つ引っかかってる事なんてないんだ。————ボタンを押した。

ジャッジャーーーーーン
ジャララーーーーージャララーー———ジャラ
ジャッジャーーーーーン
ジャララーーーーージャララーー———ジャラ
ジャッジャーーーーーン
ジャララーーーーージャララーー———ジャラ

轟音だ。いかがわしい、イライラする、サイテーな音だ。

ジャッジャーーーーーン
ジャララーーーーージャララーー———ジャラ
ジャッジャーーーーーン
ジャララーーーーージャララーー———ジャラ
ジャッジャーーーーーン
ジャララーーーーージャララーー———ジャラ

バンドインと同時に、本棚がバキバキバキバキと真ん中から避けた。揺れる船長室。おれはしりもちをついた。たっていられない。辺り一面ほこりが舞い上がって何も見えない。いかがわしいギターの音。ドカドカうるさいドラム。女が別れを拒むようなねちっこい歌、ああ、最低だ。わかってた、おれが「やる」を選ぶとたいていこういうことになる。ギターが鳴り止み、ぎりぎりあたりが見回せるほどに落ち着いた頃、轟音を聞きつけて藤村が船長室にやってきた。

「だだだだだ、大丈夫ですか???? いま何かが壊れる音と同時に強烈に最高な音楽が鳴り響いたんですが、ここですか!?!?」

ずいぶん興奮している。

「ああ、また賭けに負けちまった。そこの本棚の妙なボタンを押しちまってね、そしたらこのざまだ。退屈しのぎになるかと思ってた本達もめちゃめちゃさ、見てくれよ。」

と、背後にある本棚の方を指差した。藤村の目の色が変わった。

「あいつめ・・・。こんなとこにかくしていやがったか。」

藤村が俺をまたいで本棚の方へ向かう。

「おいおい、あぶないぞ、おい、、、、、、、、、、ん!!!!!?????」

藤村がホコリを切り、向かう先、避けた本棚の向こうに、鏡ばりの部屋が出現してた。真ん中には、ドラムが置いてある—————————

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